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視察報告

大阪市ヘイトスピーチに対処に関する条例について

平成28年4月12日(火)

【視察先】

大阪市役所

【視察目的】

大阪市は、平成26年からヘイトスピーチに対する問題意識を市長が表明し、平成27年5月に大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例案を市会に提出した。平成28年には条例案の一部修正がおこなわれ、1月18日に条例公布、一部施行された。大阪市特有の背景はあるものの、国の動きを同じ時期にこのような条例を制定し取り組んでいる先進事例を視察調査することにより、埼玉県内におけるヘイトスピーチ対処などの参考とする。

【視察内容の概要】

 平成26年から議論されてきた「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の内容、大阪市特有の地域的な状況、ヘイトスピーチの定義のアンビバレントな困難性、実際の運用の難しさなどについて、大阪市担当者より説明を受けた。

【説明要点】

1,大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例案を提出するまでの経緯など
 平成26年7月に、ヘイトスピーチに対する問題意識を市長が表明する。その後人権施策推進審議会へ、憎悪表現(ヘイトスピーチ)」に対する大阪市として取るべき方策が諮問された。当時、大きな話題を生み、パブリックコメントは1400件以上の反応があったとのことだった。内容は、7割が条例制定について反対の意見であったが、平成27年2月には、人権施策推進審議会より答申が出される。同3月には条例案要綱がまとめられ、市民意見の募集を約1か月おこなった。同5月22日には、「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例案」が市会へ提出された。同日、国も同時に法案を出している。
6月議会では、継続審査になるも、ヘイトスピーチの根絶に向けた法整備を求める意見書が可決され、委員会の質疑を経て、平成28年1月市長による条例の修正がなされ、条例が成立した。
2,ヘイトスピーチの定義を明確化
条例制定には、まずはヘイトスピーチの定義をすることから始まった。大阪市では、第一段階であるとの認識から、人種もしくは民族に係る特定の属性を有する個人または当該個人より構成される集団に対する表現活動で、①目的性、②態様、③不特定性により明確化している。※ヘイトスピーチとは、人種、国籍、宗教、性的嗜好、障害、女性や男性などに基づいて個人または集団を攻撃、脅迫、侮辱、更に他人をそのように煽動する憎悪表現だが、あえて大阪市は上記の様に定義したとのことであった。
3,条例についての補足
 当初は、訴訟の貸付費用についても必要との議論があったが、最終的には削除されることとなった。リスク回避。
4、啓発とヘイトスピーチによる拡散防止措置及び認識などの公表
ヘイトスピーチによる人権侵害に関する市民の関心と理解を『深めるための啓発を行う。プロバイダーへの削除要請なども視野にいれている。申出等に基づき、ヘイトスピーチ審議会の意見を聞いたうえで、それがヘイトスピーチに該当する場合、拡散防止措置をとるとともに、表現内容の概要や表現活動を行ったもの氏名または名称を公表する。これは、実際には、相反する効果もあるので、「公表」しないこともできる条例となっている。

【埼玉県政への参考】

 実際には本年夏ころの受付を予定しているが、ヘイトスピーチの認定と措置については、様々な質問をさせていただいた。ポイントとして、悪口程度のものや会員のみが参加できる集会での発言は、定義上該当しないと考えられるが、実際のケースに照らして各ケース毎に判断していくとのことであった。その時には、思想、考え方自体を問題にするのではなく、発言などの表現活動が定義に該当するかで判断するとのことであった。また、ヘイトスピーチが行われるかどうかを事前に判断したり、その場で判断したりができないため、あらかじめ、それが予測できていても、街宣活動や集会を規制したり、その場で中止させたりするような規定はしていないということであった。埼玉県においても、すぐに条例を制定するか否か派別として、ヘイトスピーチへの対処については問題意識を明確化し、それに対応する施策の意義については参考にすべき点が多々見いだせた内容であった。


写真1


写真2

【視察参加者】

浅野目、山川、畠山、田並、菅、木村、高木、山本、水村、井上、山根、江原、(12名)

【説明者】

大阪市市民局 ダイバーシティ推進室人権課長企画長 薮中昭二氏
大阪市市民局 ダイバーシティ推進室人権企画課長代理 森浩一氏


【報告担当】

江原久美子

京都府若者の就職等の支援に関する条例について

平成28年4月13日(水)

【視察先】

京都府庁

【視察目的】

京都府は2015年7月に、若者に多い引きこもりやニートの就労支援に力を入れる事などを定めた「京都府若者の就職等の支援に関する条例」を制定した。若者の就労支援に特化した条例は全国で初めてであり、先進事例を視察調査することにより、埼玉県内における若者の就労支援などの参考とする。

【視察内容の概要】

  京都府で制定した「京都府若者の就職などの支援に関する条例」の内容や、ブラックバイト対策、平成28年度当初予算における若者就労支援関連の各種事業について、京都府担当者より説明を受けた。

【説明要点】

1,「京都府若者の就職等の支援に関する条例」の制定の背景について
 若者の就労の状況は、正社員として働きたいが、やむなく非正規労働者としている割合が他の世代に比べて高い。若者世代におけるこうした不本意正規労働者は18%いる。学校を卒業して就職しても3年以内に離職する割合が高い問題もある。そこでこのような課題に対応する為、若者の雇用の安定と職業能力の向上を図り、若者が希望や能力に応じた職業につき、能力を発揮できるようにする事により、若者の福祉の増進、社会や経済の発展に繋げる事を目的として条例を制定した。

2,京都府が行う施策のポイント
1. 若者のスキルアップ・就職支援
京都ジョブパークの設置(各種の施策の中心となる)
京都ジョブパークは、ハローワークと連携して、相談から就職、職場への定着まで、ワンストップで支援する総合就業支援拠点である。
ジョブパークの設置にあたっては、埼玉県の事例も参考にした。
平成19年に設置をして累計の内定者は50000人を突破した。平成28年4月からは新卒応援ハローワークも設置。
UIJターンにも力を入れている。
近年人手不足の分野となっている福祉人材コーナーを設置しているのも特色である。またコミュニケーション能力や日常生活自立などに不安を抱える方などを対象とした、自立就労サポートセンターも設置。マザーズジョブカフェもある。

2. 若者の就職支援に取り組むNPO等への支援
基礎的就職支援事業として、働く上で必要な基礎的な知識などについての講習などを実施。
実践的就職支援事業として、就職して働く為に必要な技能や知識を習得する為、実際の職場での実習訓練を実施。
* 平成28年度はNPO3団体を支援。

認定した計画にもとづいて実施する就職支援事業に使用するために不動産を取得した場合、不動産取得税を2分の1に軽減するのが特徴である。

3. 若者の職場への定着を支援
 事業主向けの職場の環境改善講習会を実施したり、社会保険労務士などを職場に派遣して、職場環境を改善するアドバイスを実施。また労働条件などの職場環境に関する若者からの労働相談に応じている。
* 社会保険労務士の派遣は1回 23,000円で委託。
延べ年1000回派遣。

4. キャリア教育の推進
 児童・生徒・学生に対して職業体験やインターンシップを実施。また働く上で必要な労働関係の法令の知識について学ぶ機会を提供している。

3,条例についての補足
 条例の若者の定義は、15才以上35歳未満としている。
 上記の施策については、条例制定以前から実施しているものも多いが、条例を制定して問題意識を明確化して、施策の根拠とする意味もあり条例制定に至った。また条例づくりは現府知事の公約でもあった。

4,ブラック企業・ブラックバイト対策について
 近年、ブラック企業やブラックバイトが問題となってきている事から、すべての高校3年生に「学ぼう!働く上で知っておくべきワークルール」というリーフレットを配布した。

【埼玉県政への参考】

 個々の施策としては、既に埼玉県でも実施している内容も多いが、条例を制定して問題意識を明確化して、施策の根拠としたという条例制定の意義については参考にすべきである。
埼玉県は全国でも佐賀県と2県だけというハローワーク特区に取り組んでいる。こうした取り組みを活用すれば、より一層深化した若者の就労支援を行えるのではないだろうか。
またすべての高校3年生に配布をした労働関係法令の概要、働き生き残るためのセーフティーネットの説明、相談窓口の紹介などを記載したリーフレットについては、労働者が身を守ったり、ブラック企業やブラックバイトの撲滅をしたりする事に役立つのではないだろうか。
 若者世代特有の課題もある事から、政労使及び若者世代の連携を深めて行く事が、若者の就労支援には肝要である。



写真1:京都府議会会議室での視察の様子


写真2:説明資料の一例


写真3:説明資料の一例(「学ぼう!働く上で知っておくべきワークルール」というリーフレット)

【視察参加者】

浅野目、山川、畠山、田並、菅、木村、高木、水村、井上、江原(11名)

【説明者】

京都府商工労働観光部 労働・雇用政策課 課長  和久輝幸 氏
京都府商工労働観光部 労働・雇用政策課 副課長 中野祐治 氏
京都府商工労働観光部 総合就業支援室
京都ジョブパーク担当 副課長 中井雄作 氏


【報告担当】

水村篤弘
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